緑内障の手術について
はじめに
緑内障手術は点眼薬やレーザー治療が功を奏さなかったときに行います。手術は視力や視野を良くするのではなく、眼圧を下げて緑内障の進行を防止し、失明を予防するために行います。
しかし、手術によって眼圧が下がっても視野障害が進行する方もいます。これは視神経が障害されてから視野障害が出現するまでに何年かかかるために、手術前にもともとあった視神経障害が手術の後に現れることが考えられています。
手術方法
手術の方法には何種類かあり、緑内障のタイプ、進行の度合いなどそれぞれの眼の状態などを総合的に判断して決めます。
線維柱帯切開術(せんいちゅうたいせっかいじゅつ) (トラベクロトミー)
目詰まりしている線維柱帯を切り開き、本来の流出路であるシュレム管に房水を流す手術です。
まず結膜と強膜を切開し、シュレム管を露出(ろしゅつ)し、線維柱帯を眼の内側に向かって切開します。手術後、房水は切り開かれた線維柱帯部分からシュレム管へ流れ、静脈へ吸収されます。
線維柱帯を切り開くと、静脈から眼の中へ血液が逆流します。手術の後はその出血のために見えにくくなります。出血が吸収されて見えるようになるまで2日〜1週間かかります。手術の後には手術前より見えづらくなりますが、また見えるようになるのであまり心配しないようにしましょう。
線維柱帯切除術(せんいちゅうたいせつじょじゅつ) (トラベクレクトミー)
線維柱帯を一部分、切除し、房水の出口を別に作る手術です。
まず結膜と強膜を切開し、線維柱帯を一部、切除します。また、切除した線維柱帯部分に虹彩が癒着してしまわないように、虹彩も一部、切除します。房水の流れ出ている通路が塞がりにくくなるように、傷口を治りにくくする薬(マイトマイシン)を結膜と強膜に浸(ひた)します。最後に、切開した強膜と結膜を再び縫合します。手術後、房水は線維柱帯の切除された出口を通り、強膜の切(せっ)開(かい)創(そう)の隙(すき)間(ま)を通って結膜の下に流れ、結膜の血管から吸収されます。
結膜の下に房水が貯まるようになり、この膨らみを濾過胞といいます。
隅角癒着解離術(ぐうかくゆちゃくかいりじゅつ)
隅角が狭くなり、房水の流れ出る線維柱帯に虹彩が癒着して房水が流れにくくなった眼(閉塞隅角緑内障)に対して、その癒着部分を剥(は)がす手術です。
眼の内側から、隅角癒着解離針(ぐうかくゆちゃくかいりしん)で、線維柱帯に癒着している虹彩を剥離(はくり)します。手術後、隅角が開き、房水は線維柱帯を通って、シュレム管へ流れます。白内障の手術を一緒にすると効果的なことがありますので同時に行うことがあります。手術の後、2〜3日頃の眼の状態によって、剥がした場所がまた再癒着しないように虹彩の根元にレーザーをすることがあります。
手術中について
手術時間は60分から90分です。点眼と注射による局所麻酔(眼だけに麻酔をします)で行い、手術中の痛みはほとんどありません。手術中は顕微鏡を使って細かい操作をしています。急に動くと危険です。咳やくしゃみが出そうなとき、痛いとき、トイレに行きたいときなどは、我慢せずに声で教えてください。
術後の合併症及び、注意点
合併症などが生じる危険はとても少ないのですが、やはり、100%何も起こらない手術というものはありません。以下のことをよく読んで理解されてから手術を受けるようにしてください。
1. 出血
白目の出血は術後1週間くらいで吸収されます。眼の中に出血を起こすこともありますが、通常は数日で吸収されます。出血の量が多く、吸収されにくい場合には洗浄する場合もあります。
また、極めてまれですが、「駆出性(くしゅつせい)出血」と呼ばれる合併症があります。手術中に眼球内に大量に出血が生じるもので、眼の命にかかわる合併症です。予測不能で、確実な予防法はありません。眼に力が入ってしまうと生じやすいとも言われていますので、手術中に「トイレに行きたい」「足がしびれた」「息が苦しい感じがする」「ちょっと、痛い」など気になることがありましたら、我慢せず声で医師に伝えてください。
2. 眼内炎
手術中、もしくは手術後に細菌が入り込んで、眼球内に炎症が広がることがあります。最悪の場合、失明してしまいます。発生率は眼科の手術全体で0.1 %以下と報告されています。視力低下、充血や痛みが続くなどの症状があります。発症したら、早急に処置をすることになります。
3. 視野、視力について
手術は眼圧を下げて視野がこれ以上悪くならないようにという目的で行います。しかし、まれに、手術後に中心部の視野が失われて急激に視力が悪くなってしまう方がいます。視野がとても進行した状態の方にみられるものです。
4. 手術の麻酔について
麻酔薬にショック(強いアレルギー反応)を起こす可能性はありますが、今までにそのような事態になった方はいません。が、万一ショックが起きた場合には適切な処置を行います。
5. 手術後の眼圧について
手術後数週間は、眼圧が高かったりもしくは低かったり、安定しないことがあります。眼圧によっては何らかの処置をすることになることもあります。また、眼圧がとても低い場合には見えづらくなります。緑内障の手術後は、白内障手術後と違って、手術の後、手術前より見えづらい時期がしばらく続くことが多いです。あまり心配せず、医師に相談し説明を聞くようにしましょう。
線維柱帯切除術(せんいちゅうたいせつじょじゅつ) (トラベクレクトミー)を受ける方は次のことにも注意が必要です
- 1. 低眼圧
- 手術の後に眼圧が下がりすぎたりすることがあります。房水が結膜の下に多く流れすぎたり、結膜より外に流れ出てしまうことなどから生じます。低眼圧が続くと眼の張りが失われて見えづらくなります。その場合、圧迫眼帯をして房水が流れすぎないようにしたり、または、もう一度、手術の創(そう)を縫い直したりすることがあります。
- 2. 眼圧上昇
- 手術直後にも、手術で作った創が閉じかけると眼圧が上昇します。手術直後の入院中は、医師が眼を押してマッサージをしたり、創を縫った糸を切るためにレーザーをしたりして、眼圧を調整します。ただし、手術時には低眼圧にならないようにむしろきつめに創を縫いますので、このマッサージやレーザーなどの処置はほとんどの方に行います。手術後の処置は、手術の一部として考えていただいたほうが良いかと思います。
- 3. 感染症
この手術を受けた眼は、特に感染に注意する必要があります。手術を受けた部分には濾過胞ができています。濾過胞は結膜で覆われていますが、結膜はとても薄いためにこの部分から細菌などの感染を起こす危険があるためです。放置すると、眼全体に細菌が入り失明の危険もありますので注意が必要です。手術の後、数ヶ月から数年経ってから起きる可能性があります。
以下のことに気をつけて生活してください。
- 手は頻繁に石鹸でよく洗うこと
- まぶたをこすらないこと
- 庭木の手入れなどをする時はメガネ・サングラス等で眼を保護すること
- 家族とは別に自分専用のタオルで顔や手を拭き、タオルは使用のたびにきれいに洗濯し、常に乾いた清潔なものを使用すること
- 水泳等のスポーツは医師と相談してください。
- 4. 白内障の進行
年をとるにつれてどなたでも少なからず水晶体が濁ります。これを白内障といいます。緑内障の手術をした後、白内障の進行が早まることがあります。視力に影響するようになったら、白内障手術をすることがあります。
(以上、トラベクレクトミーの注意事項)
手術前の準備について
手術を受けるにあたり、簡単な全身検査(採血、心電図、レントゲン写真)と眼の検査を行います。これは手術を受けることのできる状態であることを確認するためのものです。検査で異常がみつかった場合は、一旦手術を延期し、状態が万全であることを確認してから、あらためて手術の予定をたてることになります。
今まで服用されていた薬はそのまま服用していただくこともありますが、使用している薬によっては中止することがありますので、主治医の指示に従ってください。
そのほか、手術や入院の手続きに関しては看護師から説明がありますので、指示に従ってください。
手術後について
入院中
翌日の朝まで眼帯をしたままになりますが、翌日の朝に必ず診察しますので、それまで外さないでください。入院はだいたい1週間から10日ですが、眼圧の経過によって処置をし、状態が安定してから退院になります。
退院後の受診について
退院後は1週間後、2週間後、と徐々に受診の期間があいていきます。退院後の診察も眼の状態によって、間隔はまちまちですので、医師との指示に従って受診してください。
退院後の日常生活について
特に気をつけていただきたいことは
- 眼に水をいれない
- 目薬を忘れない
- 眼をぶつけない
などです。
他の日常生活について
- 1. 洗顔について
- 手術後1〜2週間は顔を拭く程度にしてください。
- 2. お風呂
- 首から下は手術当日よりかまいません
- 3. 洗髪
- 手術後1〜2週間はご自分で洗いますと眼に水が入る可能性がありますので、美容院などで仰向けの状態で洗ってもらうほうが安全です。
- 4. アルコール
- 手術後の充血が起こりやすくなるので、当日は控えてください。
- 5. 喫煙
- ニコチンが血管を収縮させ視神経の栄養障害を起こす原因となります。禁煙しましょう。
- 6. 家事、仕事
- 事務系の仕事は手術翌日から復帰してかまいませんが、外での勤務や体を動かす仕事の方は医師にご相談ください。
- 7. スポーツ
- 散歩などは、翌日から可能です。ゴルフ、水泳、ジョギングなどはだいたい、手術後1ヶ月を目安としますが、始める前に医師にご相談ください。
- 8. テレビ、読書、ワープロ、コンピューター
- 手術翌日より可能ですが、見えづらいことが多いので、疲れの原因にもなります。あまり無理をしないようにしましょう。
- 9. 車の運転
- 手術後は見えづらくなっていることが多いですので、いつから可能か、医師と相談の上、決めましょう。
他、何かわからないことがあれば、医師に相談してください。
これからについて
緑内障は手術が済んでも、治療が終わった訳ではありません。緑内障は眼圧の経過などを診ながら根気良く治療を続け、生涯にわたって通院が必要な病気です。今後も医師の指示に従い、定期的な診察が必要です。点眼薬や内服薬は正しく続けてください。また、長い期間の治療をより良く行うためにも、医師と相談しながら進め、緑内障の理解を深めていただくことが重要です。次回の診察で質問できるようにご自分でメモをつけておくのも良いと思います。
この手術の説明書や普段の診察について、ご不明な点やご心配な点がありましたら、遠慮なく医師にお尋ねください。