角膜移植
角膜移植
角膜移植は、角膜の働き(透明なレンズとしての役割、眼球の壁としての役割)が損なわれ、かつ内科的治療ではこれを治すことが出来ないときに適応となります。具体的には、
- 角膜が混濁したとき。
- 角膜が光を正しく屈折しないとき。
- 角膜に穴が空いたとき、または空きそうなとき。
に考慮されます。
(1)角膜移植の原因疾患
円錐角膜の眼を真横から見たところ。やや下方の角膜が薄くなり、不整に突出しているのがわかる。
我が国の角膜移植で頻度の高い原因疾患は、①円錐角膜,②角膜炎後の混濁,③水疱性角膜症,④角膜変性症,などです。
円錐角膜は10代後半から20代に発症し,角膜中央部が徐々に薄くなって角膜が不整に突出する疾患です。本来,角膜はほぼ球面をなしたレンズですが、これが突出して歪んでしまい、レンズとしての役割を果たせなくなってしまいます。原因は不明ですが、一般的には遺伝性のないものが殆どです。アトピー性皮膚炎など他の疾患を伴う例もあります。円錐角膜といっても程度はいろいろあり、全員に手術が必要なわけではありません。中等度の症例まではコンタクトレンズで視力を矯正することができますが,高度になってコンタクトレンズでも矯正視力が十分でない、あるいはレンズを半日以下しか付けられないような場合に角膜移植が考慮されます。
角膜炎後の混濁は高齢者が角膜移植を受けられる原因として多いものです。若い頃に角膜炎(「つきめ」とか、「めぼし」などと言われることもあります)を患い、その後角膜に瘢痕(はんこん)が残ったものをいいます。角膜炎は細菌,真菌(かび),アメーバ,ウイルスなど様々な病原体が原因となって生じます。
水疱性角膜症は角膜が浮腫状に混濁する疾患で,角膜内皮細胞の機能不全による病気です。角膜の裏側には、「内皮細胞」と呼ばれる細胞があり、これが角膜の水分量を調整しています。この内皮細胞が何らかの原因で減少し、角膜に水分がたまってむくんでしまった状態が「水疱性角膜症」です。白内障や緑内障に対するレーザーなど眼の手術の後に発症するものもありますが、内皮細胞の「強さ」にも個人差があり、僅かなきっかけで発症することもあります。以前に角膜移植を受けた方の内皮細胞が減少して、再度角膜移植が必要になった状態(「再移植」とも呼ばれます)も、広い意味での「水疱性角膜症」に含まれます。
角膜変性症は生まれつきの素因で,角膜に異常な物質が蓄積することになって生じます。種類によって、遺伝しやすいものとそうでないものとがあります。顆粒状角膜変性症,斑状角膜変性症,格子状角膜変性症などがあり,両眼性であることが特徴の1つです。疾患によっては角膜移植後も再発が生じ,繰り返して角膜移植が必要となる場合があります。
(2)当院での移植件数の年度別グラフ
(3)主な角膜移植の手技
角膜移植には、大きく分けて全層を移植する「全層角膜移植(PKP)」、表層のみを移植する「表層角膜移植(LKP)」と、そして「角膜内皮移植(DSAEK)」の3通りがあります。層状角膜移植は、角膜の混濁が表層にのみある場合に行われ、全層角膜移植(PKP)は混濁が全層に及んでいる場合に行われます。内皮細胞の障害がある場合には状態によって角膜内皮手術が行われます。層状角膜移植は、手術後に拒絶反応がおこる危険性が少なく、安全性が高い方法です。反面、僅かながら角膜の濁りが残ってしまうことがあり、視力は全層角膜移植(PKP)よりやや劣るのが欠点です。更に最近、層状移植の欠点を少なくする方法として、「深層層状角膜移植(DALK)」という方法も行われるようになりました。
ここでは「全層角膜移植(PKP)」、「深層層状角膜移植(DALK)」、そして「角膜内皮移植(DSAEK)」の方法をご説明します。
全層角膜移植術 (PKP)
角膜は眼の表面から内側まで、大きく分けて「上皮」、「実質」、「内皮」の3つの層に分かれています。この3層全てを移植するのが全層角膜移植術(PKP)です。角膜移植には100年ほどの歴史がありますが、この全層角膜移植術(PKP)は最も古くから行われている、歴史のある術式です。角膜の実質と内皮の両方に異常がある疾患では、この方法で手術を行います。一部の水疱性角膜症や再移植が、この方法の適応疾患となります。また、深層層状角膜移植術(DALK)の適応疾患でも角膜内皮細胞数が少ない場合は全層角膜移植(PKP)の適応となります。
これは眼球の横断面です。患者様の角膜を全層にわたって取り除き、ドナー角膜もほぼ同じ大きさで打ち抜いて、糸で縫いつけます。図の赤い部分を移植します。
深層層状角膜移植術(DALK)
これは、角膜の90%以上の厚みを取り除いてからドナー角膜を移植する方法で、従来の層状角膜移植よりも良い視力が期待出来ます。但し、0.5~0.6㎜しかない角膜を0.02㎜くらい残して削るので、技術的に大変難しく、手術中に残した患者様の角膜に穴が開いてしまうことがあるのが欠点です。この場合、術式は全層角膜移植(PKP)に変更されることがあります。また、内皮細胞が障害されている疾患は、この深層表層角膜移植(LKP)の適応にはなりません。内皮細胞に異常のない、円錐角膜や角膜炎後の混濁、角膜変性症などがこの方法の良い適応になります。
全層角膜移植術(PKP)と異なり、患者様の内皮(図の青い部分)を残し、それより表層にある赤い部分のみ移植します。青色の「内皮」はご自分の組織ですので、「内皮型拒絶反応」を回避できるという大きなメリットがあります。
角膜内皮移植術 (DSAEK)
患者様の内皮細胞とデスメ膜(内皮細胞の基底膜)を取り除き、ドナー角膜の内皮と深層実質を移植する方法です。ドナー角膜は、眼の中に空気を入れてその浮力で患者様の角膜と接着させます。上の二つの方法と異なり、ドナー角膜を糸で縫わないことがこの方法の大きな特徴で、そのため移植術後の乱視などが軽減されるというメリットがあります。
角膜内皮細胞の機能が不良となり、角膜に浮腫をきたした状態、すなわち水疱性角膜症がこの手術の適応疾患になります。ただし全ての水疱性角膜症の患者様にこの手術方法を行えるわけではありません。
赤い色を付けてある、角膜内皮だけを移植します。角膜表面のカーブの形状が保たれるので、手術によって近視や遠視、乱視などの度が大きく変わらないで済みます。
角膜移植術式別施行件数
- *1 Descemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplasty
/ Descemet’s membrane endothelial keratoplasty - *2 Penetrating Keratoplasty
- *3 Lamellar Keratoplasty
- *4 Deep Anterior Lamellar Keratoplasty
- *5 Limbal Transplantation
関連リンク集
- 東京歯科大学市川総合病院 角膜センター
- http://www.eyebank.or.jp/
- SJS患者会
- http://www.sjs-group.org/index.html
- 角膜移植患者の会
- http://www5c.biglobe.ne.jp/~atsuko/index.htm