臨床：DMEKシフトが一気に加速

島�ｱ　僕は昨年のアニュアルレポートの巻頭言で、市川で人事異動による変化が今後1-2年で形になるだろうと書いた。それが現実になり、ここにいるメンバーがリーダーシップをとって、臨床、研究、教育でも中心になっていくフェーズに入ってきたと思います。そこで、みなさんと、現状と今後について話ができればと思って今回は集まってもらいました。最初は臨床から。今後はどのあたりがトピックスになそうかね?

山口　まずはDMEKが軌道にのってきたということでしょう。

福井　70-80例ぐらいでしょうか。だんだん 100例に近づいてきています。

島�ｱ　DMEKをいち早く掛けてきたアメリカ人が言うには、一度DMEKをやるとDSAEKには戻れないと。みんなそう思う？

冨田　確かに透明性はDMEKかなと。

島�ｱ　僕は始めてちょうど1年ぐらいかな。20眼ぐらいやったんだけど、できるんじゃないかなと楽観的な気持ちになっている。もうちょっと嫌な思いをするのかと思ったんだけど。

山口　適応をしっかりして、ノウハウを医局全体で共有すれば、確率は高められるのではないかと思います。

島�ｱ　平山先生はこれから始めるところだけど、やっぱりやりたい方向？

平山　この歯科大という環境であればやりたいと感じます。みなさんすでに件数を経験されているので、事前に島�ｱ先生に助手としてついたりもできますし、結果も見ているとチャレンジしたいと思います。

島�ｱ　まったくの一人で始めるのは大変だよね。そういう意味では今、歯科大で始めるのはいい選択だと思う。以前は苦戦してたじゃない？　あれは何が違ったんだろう？

冨田　ムダが多かったんです。術中のロールの向きで確認してたので、ロールで確認できない症状は難しかった。

島�ｱ　2021年はOCT付顕微鏡も入るから、もっと自信をもってできるようになるだろうね。

山口　新時代が来たということは感じますね。うちでDMEKをやって先生がビデオをシェアしているというと、他施設から参加したいという声も聞きます。

島�ｱ　オンラインで？ いいね。slackで流すとかね。そうすると角膜フェローなどで来ている先生もブラッシュアップできたり、また向こうからslackで送ってきたりね。ぜひやりましょう。

研究：治療の高みを目指して分野融合・連携が進む

島�ｱ　2020年は山口先生がすばらしい集大成の論文を出したよね。

山口　病態にはかなり迫ることができたので、次は治療に向かおうと思っています。共同研究の枠組みもいろいろと整ってきましたし。

島�ｱ　確かに我々の規模で先端の研究を全部自前でやるのは、今後厳しくなる。だからオミクスとか、AIとか、そういうものは共同研究していくことになるし、共同研究できるのもメリットかなと思う。冨田先生はどう？

冨田　僕は山口先生の前房水の研究の枠組みを、涙液と眼表面疾患に移植して何か新しいことができるのではと考えています。

島�ｱ　疾患にターゲットを絞るわけではなくて？ 検査系？ 病態？

冨田　病気でいえばスティーブンスジョンソン症候群が多いです。歯科大には10年弱で150人ぐらいのスティーブンの患者さんが通院されていたので、もう一回見直してみたいなと。同じ人でも、悪い時は何をやってもダメで、よくなる時はどんどんよくなるじゃないですか。それがなぜなのか、少しでも新しい切り口で、治療の突破口が見つかればと思っています。

島�ｱ　確かに眼表面再建って、一歩踏み外すと、戻るのが大変。

冨田　でも落ち着くとすっと落ち着いたりとか。それをより早い段階で察知できて、転げ落ちる二歩ぐらい前で止められたらと。

島�ｱ　福井先生は？

福井　一つはDMEKの解析を進めています。角膜内皮細胞密度が高ければ術後の視力の出が早いだろうと予想されるので、いかに角膜内皮細胞密度を保持して手術が終えられるかを研究したいと思っています。

島�ｱ　それは山口先生が研究しているような、前房環境で後から減るやつじゃなくて？

福井　手術手技の問題でどう工夫ができるかです。S-stampも手術成績の向上に貢献していると思いますし、preloaded donor 角膜を使用することで手術時間を短くしたりと、DMEKはいろいろなところで検討の余地のある手術だと思いますので。

島�ｱ　DMEKは“ 積み重ね系”の手術というイメージだよね。平山先生は？

平山　僕は引き続き再生医療を研究する一方で、最近、細胞フリーの医療を目指す動きというのがある。それで涙液の細胞ではないところ、エクソソームに注目した研究をしています。細胞フリーの治療というのは今後導入していきやすい治療だと思いますので、得られた知見を動物から検体へと広げていきたいと思っています。

島�ｱ　10 年ぐらい前の歯科大の臨床研究といえば、お前は角膜移植だ、お前はドライアイだ、みたいな感じだったけど、今、聞いていると、再生医療にも涙液があったり、スティーブンの涙液の分析があったり、みんな合わさっていて、それが最終的には患者さんの成績をよくすることに向かっている。なんだかいい感じだなと思った。

教育：全員が成長できる教育システムを模索

島�ｱ　じゃあ教育は？　歯科大には全国から勉強に来てくれるし、研修医も増えそうだと聞いている。そうすると、ここにいるメンバーと研修医の間はどんどん離れていくことになるけど、やり方を変えるべきかね？

山口　今日、手術をしながら、研修医の先生に眼内レンズの歴史をちょっと話していたんです。眼内レンズ誕生にまつわるリドレー先生の話とか、みんな知らないんですよね。海外の学会などに行くとマニアックな話が聞ける場が必ずありましたが、コロナで行けなくなっているので、独自に教える機会があってもいいかもしれません。

島�ｱ　僕らがバイキングとかの勉強会を企画すると、自ずとDMEKのやり方とか、自分が興味のあるテーマになるし、ジャーナルでもピクニックでも最先端のことになる。それはそれで必要なんだけど、温故知新で積み上げてきたものを振り返ったりと、テーマを広げる努力も必要なのかな。

福井　歯科大にいる先生は、スペシャリストの先生と、中堅で勉強しに来ている先生と、眼科を始めた先生の３つに分かれると思うんですが、実は教えられることだけが勉強じゃなくて、教えることも僕の中ではすごく大事な勉強だと思っています。それによって、自分がわかっていないことに気づいたりするので。中堅の先生は、現場では下の先生を教えるというシステムを作るのはどうでしょう。上の先生から中堅の先生に教える、中堅の先生はそれにより学ぶし下の先生にも教えられる。そうすれば学びの効率が高まるのでは。

冨田　歯科大が教育機関でもあるために、患者さんの数が変わらなくても診察する側が多くなってしまうことがある。一方、患者さんから学ぶことは多いので、一人の患者さんを2人とか3人で診るというのはどうでしょうか。あとは実際の手術で、たとえば僕たちは手を動かさないで、中堅の先生と下の先生でオペをやってもらうという案も以前から出ていますよね。移植の助手も経験にはなりますが、見ているよりは得るものが大きいと思うので。

島�ｱ　もちろん一定のレベルに達していることと、専門医が近くでスーパーバイズすることが条件だけどね。

平山　オーベン（指導医）・ネーベン（研修医）みたいな仕組みをあえて作ってもいいかもしれませんね。僕もオーベン・ネーベンの時代にすごく楽しかった記憶がありますし、オーベンにズバズバ聞けたりするので。

夢と課題：常に後ろに道ができるフロンティアとして

島�ｱ　今後、東京歯科大眼科の立ち位置はどうなると思う？

山口　日本の角膜医療を見渡すと、世界から遅れ始めている分野が結構出始めている。例えばDMEKも周回遅れになっているとか、世界では始まっている角膜の神経移植も、やっている施設がほとんどないとか。世界標準を見据えて歯科大で新しいことをやり、教育できる体制をつくることで、未来の角膜医療を目指したいと思います。

島�ｱ　ということは、僕らはもっと突っ走れということかな。

福井　僕は眼科でも角膜でも、全部の分野を融合的に見られるというのが大事だと思います。あとはその中でも自分の専門性を持ったものがとびぬけていく、という両方が大事だと。歯科大はそれぞれの先生の興味が多様である一方で、話し合って情報を共有し、知識を蓄えていく文化もある。それぞれの先生が頑張り、情報を共有して融合させていった先にまた新たな高みが見える、そうやって発展していくのが理想的かなと。

島�ｱ　僕らの間のコミュニケーションが重要ということか。

福井　そうですね。

平山　DMEKにしてみてもそうですが、他の大きい施設がひるんでいる間に新しいことにどんどん取り組んで実績をつくるというのが歯科大の強みになるんじゃないかなと。今後も、期待されるところには果敢にチャレンジして先導的な役割を果たしていくことが大切。同時に、ちょっと変わり種のことや小さいことにも取り組んで、見渡したときに「あれ、歯科大で1本何か論文が出てる」とか「成果が出てるぞ」というようになると、おもしろい施設になるのではないかと思います。

島�ｱ　世界を見ながら、コミュニケーションをとりながら、新しいことをやりながら突っ走って、みんなで日本の角膜医療の未来を開いていくと。なんてすばらしい座談会だろう。