角膜カンファランスでは、通常の学会では聴けないような眼科に関する幅広い知識習得を目的にした「角膜ナイトスクープ」という企画があります。楽しく学べるよう、大阪朝日放送の「探偵!ナイトスクープ」という人気長寿番組にインスパイアされたもので、本学会の名物企画ともなっています。日常のふとした眼の疑問を、全国から選ばれた4 名の探偵役の眼科医が自らの足で調査・解明し、選んだ疑問の面白さや調査の学術度の高さなどを競い合うもので、「イグ・ノーベル賞」のようなものを想像するとよいかもしれません。当院も主催校の責任として1名参加することとなり、私が選ばれました。
テーマを決めるにあたり、学生時代に読んだ司馬遼太郎の播磨灘物語の中に目薬についての記述があったことを思い出し、2014年度のNHK大河ドラマは黒田官兵衛が主人公であり、発表のタイミングからしてテーマはこれしかないと決めました。
「軍師官兵衛」の第一話では、黒田家は神社のお札と一緒に目薬を売ることで財を築き、家臣を得て、小寺家に家老として取り立てられたとありました。この目薬は実際にあったのか。もし、あったとしたらどのような成分で、どのような効能があったのだろうか。眼科医としてこの問いに答えるため、黒田家ゆかりの地を巡りました。兵庫県姫路市や福岡県のゆかりの地を訪ねるうちに、ついに福岡県須恵町にある“ 黒田藩の眼療医” を起源にする田原眼科で、江戸時代のものと思われる貝殻に入った眼軟膏を発見しました。しかし当然ながら変性が進んでおり、成分分析にかけても詳細不明であり諦めかけたところに、地元の教育委員会の協力で古文書を発見することができ、ここからレシピを知ることができました。そこに書かれていた全ての材料を、困難でしたがなんとか入手し、これを古文書通りに調合することを試みました。複数回の試行錯誤の上、ついに正明膏という名の眼軟膏を再現しました。そして、ウサギや自分の眼に点眼し効能を調べたところ、正明膏には抗菌作用があり、ドライアイにも効果があることがわかりました。
軍師官兵衛を意識して、鎧兜を装備し、刀を腰にさし、東京歯科大学市川総合病院眼科の旗を掲げながら、会場に入場、発表しました。発表は大好評で、ダントツの成績で優勝することができました。
この発表のおかげで9 月に福岡で開催された全国病院学会という大きな学会で、市民講座「黒田官兵衛と医療」のシンポジストとして発表する機会を与えられました。年末年始の休日を利用し、官兵衛の墓所に御礼報告に行く予定でいます。
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