|  「角膜内皮疾患のトランスレーショナルリサーチ」同志社大学生命医科学部 教授 奥村直毅先生
 
 
 
	○角膜に対する細胞移植について 
    世界中でドナー角膜が不足しており、細胞移植に期待が集まっている。培養角膜内皮細胞移植は以前から研究されていたが、ただ前房内注射するだけでは角膜の裏側に接着できなかった。奥村先生はROCK阻害剤の角膜内皮への3つの効果を発見された。1.細胞接着促進2.細胞増殖促進3.アポトーシス抑制ウサギとサルの実験にて、ROCK阻害剤を併用した角膜内皮細胞注入に成功された。その他にも、デスメ膜に多い成分であるLM511が基質に適していることなどを発見された。2013年に培養角膜内皮細胞+ROCK阻害剤を前房内に注入する臨床研究を開始され、11人中10人で生着し、注入後5年時点でも良好な視力が維持できていた。 ○角膜内皮細胞注入の製品化へ 
    製品化には以下のような法律が関連している。再生医療等安全性確保法:臨床研究、自由診療に関わる法律医療品医療機器等法:再生医療等製品の製造販売に関わる法律製品化のためのスタートアップには、資金調達や治験など様々なことが必要である。奥村先生は細胞とROCK阻害剤を混注した凍結製剤の開発に成功され、現在日本国内に細胞生産施設があり、世界各国への輸出を目指し治験を進めておられる。 ○AIについて 
    従来のAIは翻訳用モデルや要約用モデルなどタスクごとに分かれていたが、大規模言語モデルは多様なタスクに対応可能となっている。創薬AIによって低予算で創られた薬が承認取得された例もあり、医療向けの大規模言語モデルの開発がトピックとなっている。奥村先生はAIで角膜内皮再生医療の製造管理を行っている他、電子カルテ自動作成AI、AIによるリハビリ評価、緑内障患者のカルテの内容を抽出するAI、緑内障の治療法を提案するAI、感染性角膜炎の原因を予測するAIなどの開発にも携わっておられる。 ○フックス角膜内皮ジストロフィについて 
    海外ではグッタータ除去目的で視力良好なうちからDSAEKやDMEKを行ったり、直径4mmのDSOを行ったりしている。フックスの治療では角膜内皮細胞の障害と、細胞外マトリックスの沈着を抑える薬が必要。TCF4におけるトリプレットリピートが原因の可能性があるが、TGF4とグッタータとの関連や遺伝子治療に関しては研究段階。フックスの患者の角膜内皮には細胞外マトリックスが変性タンパクとして凝集しており、それがグッタータの原因となっている。mTOR阻害剤はタンパク質の過剰生成や変性タンパク質を抑制し、mTOR阻害剤の点眼によりグッタータの生成を抑制できることが動物実験で示された。現在第U相臨床試験を実施中である。今後、フックスの治療に関して現行のDSO、DMEKやDSAEKに加え細胞注入、遺伝子治療、点眼薬などの発展が期待されている。 ○質疑応答 
    ・酸化ストレスとフックス角膜内皮ジストロフィの関連について⇒関連はあると考えられるが、現段階では分かっていないことも多い。いずれにせよ病態仮説をしっかりと立てるのが大切。・細胞注入は難治性の水泡性角膜症にも効果があるのか⇒現在、奥村先生は60例の水泡性角膜症に対し細胞注入を実施しているが、1例を除いて拒絶もなく角膜透明化が得られている。・角膜内皮細胞はポンプ機能の他に、前房内へ何らかの良い作用をもたらしている可能性があるのではないか。⇒Pre peelとNon peelを比較すると、Pre peelでは明らかに培養成功率が悪く、そういった可能性もある。・注入した角膜内皮の細胞数を減らさない方法はあるのか? 多量に注入するとよりいいのか?⇒現段階では細胞数が減少した場合は再注入等が考えられており、拒絶が起こったとしてもステロイド点眼での治療を検討している。多量に注入しても費用がかさむことに加え、あまり画期的な効果は得られない可能性が高い。 
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