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ドーナッツセミナー実施記録
・2023.03.27 第171回 ドーナッツセミナー実施記録
腎移植の免疫抑制剤とその実際
東京歯科大学市川総合病院 泌尿器科教授 中川健先生

○角膜移植の免疫抑制剤

  • 限られた方にのみ投与(拒絶反応を繰り返す方、対眼の拒絶反応既往がある方、若年者等)
    シクロスポリン、タクロリムスなどの少量投与。保険適応外。

○慢性腎不全の治療

  • 血液透析、腹膜透析、腎移植
  • 血液透析の10年生存率:40%未満のまま改善していない
  • 腎移植の10年生存率は98〜99%
  • 血液透析は2日に1回2〜3時間。腹膜透析は患者さんがご自分で1日4回程度交換だが、継続可能なのは5年程度
  • 腎移植は血液透析や腹膜透析と比較して恒常性が良く、動脈硬化も進行しにくい
  • 生体腎移植、県腎移植ともに2年くらい経つと血液透析よりトータルの医療費が安くなる

○腎移植の免疫抑制剤

  • 第一世代(1960年):アザチオプリン(核酸合成阻害剤):妊婦の方でも唯一使用可能
  • 第二世代(1980年):シクロスポリン、タクロリムス(カルシニューリン阻害剤)
  • 2000年:ミコフェノール酸モフェチル(拡散合成阻害剤)
  • 2010年:エベロリムス(mTOR阻害剤)
    現在腎移植に使用されている免疫抑制剤全体の90%はミコフェノール酸モフェチルであるが、当院はエベロリムスも積極的に使っている。
  • ステロイド:急性期のパルス療法に用いる
  • バシリキシマブ(抗CD25モノクローナル抗体):移植の後の副作用を抑えられる
  • リツキシマブ(抗CD20抗体)、IVIG(グロブリン大量療法):抗HLA抗体がある方に投与することで、超急性期拒絶反応を防ぐ

○各々の免疫抑制剤の特徴

  • 免疫抑制剤の作用機序
    @T cell:カルシニューリン阻害剤
    ACTLA.4-Ig:日本では認可されている免疫抑制剤なし
    B核酸合成経路に作用:ミコフェノール酸モフェチル、mTOR阻害剤
  • シクロスポロンの併用禁忌   生ワクチン、タクロリムスなど
  • シクロスポリンの併用注意
      抗胸腺細胞免疫グロブリン製剤
      ホスカルネット、アミノグリコシド系抗生物質
      バンコマイシン、ガンシクロビル
      グレープフルーツジュース(血中濃度上昇を引き起こす)
    抗てんかん薬、リファンピシンなど(血中濃度低下を引き起こす)
      セイヨウオトギリソウを含む薬品

      ステロイド
    ACE阻害剤、エベエロリムス、ミコフェノール酸モフェチル
  • タクロリムスの併用禁忌
      生ワクチン、カリウム保持性利用薬
  • タクロリムスの併用注意
      カルシウム拮抗薬、グレープフルーツジュース
      オメプラゾール、ランソプラジール
      抗てんかん薬、セイヨウオトギリソウ、ST合剤、ステロイド
  • 免疫抑制剤の副作用
     糖尿病、高血圧、
     MMF:下痢(半夏瀉心湯が奏功することが多い)、貧血
     mTOR阻害剤:蛋白尿、貧血、創傷治癒遅延
  • 一剤を大量に投与すると副作用が強く出るので、多剤併用にすると副作用を減らせる。
  • 多剤併用の場合も悪性腫瘍、感染症の合併には注意が必要

○これまでの腎移植免疫抑制プロトコール

  • バジリキシマブ 移植の2週間前から投与開始する
  • ステロイド 移植直後に投与開始し、徐々に漸減
  • MMF 1500mg 移植直後に投与開始し、
  • CsA 200-300ng/mL 移植直後に投与開始し、徐々に漸減
  • エベロリムス 10ng/mLから投与開始し、徐々に漸減
    これまでのプロトコールでは、ステロイドによる新規発症糖尿病、大腿骨頭壊死、白内障の合併症や、CMVやBKVなどのウイルス感染症が問題となっていた。

○当院で作成した腎移植免疫抑制プロトコールについて

  • 移植腎廃絶の原因:生着中死亡(感染症、悪性新生物、心疾患、脳血管障害など)が最多
  • 再移植の割合は、日本は4.6%、アメリカは10.6%:日本は再移植の機会が少ない
  • 抗HLA抗体が出現した方:長期予後不良以上より、生着中死亡、ステロイド関連合併症、ウイルス感染症、慢性拒絶等を改善することが重要 ⇒免疫抑制剤の改良と内科による健康管理が大事
  • エベロリムスの利点
      CMV/BKVなどのウイルス感染症リスク低下:ウイルスの増殖を抑える
    心血管疾患の発症抑制:冠動脈などの血管内膜の増殖を抑える
    悪性腫瘍の発症抑制:悪性腫瘍の新規発生や再発を抑制する
  • ステロイド:手術直後の急性期の炎症対策としては有効。また、慢性期もステロイドを切ると拒絶反応が増えてしまっていた。投与量が増えれば増えるほど死亡率が上がってしまう(特に心血管イベント、感染症が増える)。
  • ミコフェノール酸モフェチル:カリシニューリン阻害剤のみと比較して格段に生着率が良いが、感染症のリスクが高い。
  • 慢性期もHLA抗体産生を抑制する=cAMRに対して有効
  • カルシニューリン阻害薬
    Acute Rejectionに対して有効
    慢性期もT cell非依存性の拒絶反応に対して有効

以上より、
@CNIとMMFは最小要領で維持
Aステロイドは早期に離脱を目指す
Bエベロリムスは移植後早期に導入
でプロトコールを新しく作成した。

  • 新しいプロトコール:ステロイド離脱率が上がり、生着率、生存率は維持できている。CMVのアンチゲネミア値も格段に減った。動脈硬化も進行抑えられている。
    ステロイド:漸減していき、3M(移植腎生検をするころ)に止める
    エベロリムスは2wより前くらいから使用開始
    MMFは途中で2000に増やし、また減らす
  • mTOR阻害剤は口内炎、浮腫、白血球減少の副作用がある:口内炎に対しては口腔ケアが重要。当院では、歯科衛生士、歯科医師、管理栄養士などにも介入してもらっている。

○質問

  • 心血管イベントは眼科の患者ではあまりないが、腎移植では腎機能が悪い方がベースなこともあるのか、眼科では投与量が少ないため起こりづらいのか?
     ⇒投与量と元々の全身状態の両方の要素がある。
  • 移植後生検は3M、1Y
      1Y超えたら1.5M or 2Mに1回程度で外来通院。
  • ネオーラルは血中濃度の上がり方が重要。内服後2時間の値を測定するように。
  • タクロリムス:最低血中濃度が重要。3で切ると免疫抑制効果がなくなってしまうが、5以上だと糖尿病の発症率が増える。5前後での維持を目指す。
  • 角膜で移植が起こりづらいのは組織が小さいから?
    サイズも関連があると思われる。
    角膜移植にも抗体抑制が隠れている可能性はあるのではないか。特に角膜は血管がない組織だからか?
  • 抗体は全身で上昇するのか?
     抗体は少量でも拒絶の原因となりうるため、角膜だけに出ることもあるかもしれない?
     セルセプトは海外では角膜移植でも使われている。
  • 腎移植は再移植などの患者背景は変えないのか?
     ⇒患者背景の違いで異なるプロトコールは作成していない。オールマイティーを目指したプロトコールを作成した。年齢や原疾患による調整などは各々の患者さんに合わせて調整している(IgA腎症ではステロイドを残すなど)
  • 腎移植の生着率と生存率は差がないのか?
     生存率:生きている。97〜98%
     生着率:移植した腎が機能し、透析をしていない状態。10年経っても95%以上。全国的にも90%以上。
      ⇒どちらも角膜移植より良い。
     生体腎移植のドナーは70歳まで。血管、線維化が生着率に関わる。
  • 急性拒絶反応、慢性拒絶反応の違いは?
      ⇒進行の時間で分けている。抗体検査なども参考にする。最終診断は腎生検で確認。
    急性:数日〜1週間。T cellによる障害。
    慢性:3ヶ月〜6ヶ月。B cellが産生した少量の抗体によるダメージが蓄積。
  • 腎移植後の細胞老化のマーカーはあるのか?
     老化のマーカーはない。ダメージなどのマーカーは検尿。(蛋白尿は腎のダメージ、潜血は原病再発)、ドップラーエコーで血流も確認している。

 

 
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