「眼感染症多項目PCR検査とぶどう膜炎診断」
大分大学 中野聡子先生
■多項目PCRについて
- 20μlピペット、マルチプレックスPCR機器があればおよそ20-30分で多項目PCRの結果が得られる。
- 特にCMV前部ぶどう膜炎の診断では有用と考えられる。
- PCRの導入によりCMVやHSV虹彩炎などの診断率が上がってくることが予想される。
- 検査はキット化されており、初心者でもPCR診断一致率は98-100%と安定した結果が得られる。
- 重篤/急性の経過を辿る感染性ぶどう膜炎もそのほとんどが眼内液PCRで検査可能となった。診断の難しい梅毒性ぶどう膜炎やトキソプラズマ症などの診断では非常に有効である。
- また、CMV網膜炎に対するガンシクロビル注射の治療効果を判定する際や、HSV・VZVでは前房内フレア(病勢)とPCRのコピー数が相関することも知られており、病勢評価にも使うことができる。
- 多項目PCR検査のデメリットとして、眼トキソカラ症や結核性ぶどう膜炎は診断が困難である。
- 細菌性眼内炎、角膜炎、結膜炎キットの開発も進んでおり、EKCやアメーバ角膜炎などでの実用化が期待できる。
- 多項目PCRの実用化に向けた他施設研究の結果から、C.acnesはコンタミが多かったためキットから除外し、細菌・真菌においても検査環境の影響を受けやすいため病原体量が多い急性細菌性眼内炎に絞った適応としている。
- 結果判定は、PCR曲線でS字カーブの増幅が得られたことを目視で確認し、検量線からコピー数を計算して行う。
■Take home message
- 様々な病因検査の特性を知り、臨床所見をベースに、必要な検査を組み合わせる。
- 全ての総合し、存在意義を考え、起炎病原体と診断する。
■質疑応答
- 眼内液ではPCRの偽陽性/偽陰性はあるか。(島崎先生)
→眼内が原則無菌なことを利用して、まず眼内液でのPCRを開発したという背景がある。
角膜などでは偽陽性も考慮しなくてはいけないが、あくまで検査のため診断は臨床所見と合わせて判断してもらう形となる。また、ステロイド導入後など病原体量が少ないケースでは偽陰性となる可能性がある。
- PCR検査が予後の判定に繋がる可能性はあるか。(山口先生)
→ARNやHSV-1では明確に予後と検査結果が相関しているがCMVではまだはっきりとした相関は示されていない。デノシンの中止時期などについては臨床所見とも合わせて判断が必要である。
- 先進医療の導入について、小規模の病院では多項目PCRキットが導入できず、定性のみのリアルタイムPCRなら導入可能であると言われたが、現状はどのような状況か。(親川先生)
→現在も常勤医が3人いない病院では定性PCRのみ可能となっており、定性PCRからさらに定量する必要がある。
- 先進医療の導入について、15例経験の内訳に多項目PCRではなく、単項目PCRでもカウントできるか。(福井先生)
→単項目PCRでも検査適応基準を満たせば、15例に含めても良い。
- 細菌/真菌の区別が大事な角膜潰瘍などの場合も将来的にはPCRで鑑別可能になるのか。(島崎先生)
→角膜などの環境では、病原体量が少ない場合はやはり検出が難しくなる。やはり眼内液の方が保険診療に通りやすいと考える。
- CMV網膜炎の場合、前房内/硝子体内から採った眼内液でPCRコピー数に差はあるのか。(福井先生)
→前房内から採取した眼内液の方がやはりコピー数は少なく、硝子体液では多くなる。
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