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ドーナッツセミナー実施記録
・2021.12.9 第163回ドーナッツセミナー実施記録
眼の免疫特権 〜免疫チェックポイントを中心に〜
日本医科大学眼科教授 日本医科大学多摩永山病院眼科部長兼任 堀純子先生

■免疫チェックポイントについて
  • PD-1, TIM-3, LAG3など免疫チェックポイントが続々と分かってきている。
    特にPD-1に関しては、難治性の腫瘍の抗腫瘍薬(ニボルマブ)のtargetとなっている。
  • 免疫関連副作用(irAE: immune-related Adverse Events)として、自己免疫性疾患が惹起され、眼科領域としては、ぶどう膜炎, ドライアイ, 視神経炎, 眼窩領域の炎症が挙がる。

    Ex. 抗PD-1抗体投与後に発症した原田病症候群の症例提示
    → 非肉芽種性虹彩毛様体炎および原田病様夕焼け上眼底認め、薬剤中止・ステロイド投与後も夕焼け状眼底が継続した。



■眼免疫の特殊性について
  • 眼、精巣などの生殖器、脳などの特定の部位では、移植組織が拒絶されにくい
    (免疫特権:Immune Privilege)
  • 角膜移植が他臓器の移植と比較し、拒絶が少ない理由として以下の3つが挙げられる。
    • ①解剖学、細胞生物分子的素因:無血管組織・骨髄細胞が未熟なこと等から生体に認識されにくい。
    • ②Immune suppression: T細胞抑制機構の存在
    • ③Immune tolerance: 前房関連免疫偏移(ACAID)の存在
  • 角膜内皮細胞表面分子として、B7-H1(PD-L1), B7-H3, B7-RP1(ICOSL), B7-H5(VISTA), Galectin-9などの因子がある。
  • 内皮細胞表面分子が移植片にきたT細胞へのアポトーシス誘導・制御性T細胞の誘導・ACAIDの誘導などといった機構に関わり、拒絶反応を抑制する。


■前房関連免疫偏移(ACAID)について
→眼内の抗原に特異的な全身の免疫寛容、前房内に抗原を投与すると全身にも免疫寛容が誘導される機構のこと。
  • 前房でトラップされた抗原は線維柱体を通じて、脾臓辺縁帯に移動。
    眼由来抗原提示細胞・NKT細胞・脾臓辺縁帯B細胞の相互作用で、制御性T細胞が分化される。
  • ACAIDは角膜移植片の長期接着には必須と考えられる。
  • 内皮細胞表面分子は、Immune suppression/tolerance(ACAID)の両方に関わっていて、ICOSは両者に関与している。
  • 従来は炎症に対する生物学的製剤する方向で治療されていたが、
    今後はImmune suppression/tolerance(ACAID)に関わる細胞表面分子などをtargetにすることも考えられる。


■質疑応答
  • ACAIDは生涯保たれるか(福井先生)
    → 神経切断などのイベントでも破綻する。また、移植を受けたすべての患者に誘導されるわけではなく、血管侵入・神経伝達分子が減少しているなどのhigh risk症例では誘導されない可能性がある。
  • ACAIDが完成していると分かれば、ステロイド, 免疫抑制薬をoffにする基準となるか?(福井先生)
    → 現時点で完成していることを確認する方法はないが、可能性はある。
  • 免疫抑制剤は腎移植のように角膜移植でも術前からの投与は有効な可能性はあるか?(冨田先生)
    → 免疫抑制剤でsuppressionは期待できるが、toleranceの誘導は期待できない。
  • 角膜移植術後、内皮細胞密度が長期に安定している患者でドナーが20代で状態の良いgraftであった経験があるが、それはドナーの状態の影響と、toleranceの影響のどちらが考えられるか?(冨田先生)
    → はっきりは分からないが、眼環境とホスト側の免疫の両者がマッチしていた可能性はある。
  • 他臓器の移植においても、拒絶反応は分子発現が少なくなることで起こるのか?(平山先生)
    → 拒絶が起こりやすい組織では、元々免疫チェックポイントが少なくlocal suppressionが低い影響が考えられる。
  • いくつかのシグナルルートがあり、どこかが破綻することにより拒絶反応が起こっているのか?(平山先生)
    → 同じタイミングでシグナル伝達が行われているわけではなく、現時点ではどのルートが重要かはわかっていない。
  • 抗PD-1抗体投与後の原田病様症状が出現した症例では、投与中止後も夕焼け状眼底が長期にわたり継続していたが、制御性T細胞の寿命を考えると違和感はないか?(島武謳カ)
    → 眼組織以外で発現しているPD-L1に感作されたmemory T細胞の影響が考えられる。副作用が強くでる症例ほど、投与した原疾患の薬効は良い。

 

 
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