「眼の進化と恒常性維持」
慶應義塾大学 医学部眼科学教室 特任准教授 栗原俊英先生
眼の進化
オウムガイのピンホールアイ
貝のミラーアイ
ミミズ 光を感知する
プラナリア 先端に二つの眼 etc.
魚は空気の屈折がないため水晶体が高屈折である必要性があり、球状水晶体である。
光感知型→集光型→レンズアイへの進化は40万年かけて進んできた。
光合成は光を受容する色素 クロロフィルやβカロテンにより行われる。
動物にも、光を視覚としてみる以外に光を感じる機構がある。
ipRGCs網膜神経節細胞は光を受け止める。 青色が最大吸収波長
進化の過程で酸素が利用できるようになった。
ミトコンドリアにより好気代謝が可能となり、大いに効率アップした。
進化の過程でフォトレセプターはどう変化したか
共通祖先:4種のオプシンを持っていた。
哺乳類祖先:2種のオプシンを捨てて、夜に恐竜から逃げられるようにロドプシンを獲得した。
霊長類祖先:変異を経て3原色を獲得。森の中で過ごしていたため果実が熟しているかどうかがわかるように進化した。
網膜
血管がないところではVEGF発現
血管あると発現していない
Hypoxia inducible factor (HIF) 転写因子
:VEGF, GLUT1, LDH―A, NOS, EPOなどの発現を制御しているもの
日齢が進むにつれて硝子体血管が退行し、網膜血管が伸びていく。
低酸素状態ではHIFが安定し、HREに結合してVEGFを発現する。
Von hippel lindau遺伝子はHIFを抑制(血管腫に関係)
VHLは網膜においてはアストロサイトの酸素応答、硝子体血管の退縮に関係している。
眼網膜色素変性に関する研究
フォトレセプター:ロドプシン、オプシン
私たちがもつオプシンはタイプ2オプシン シス型
(植物はタイプ1オプシン トランス型)
チャネルロドプシン=光を受容するとチャネルが変化する
特定の細胞に入れることで神経の操作が可能になる。
→オプトジェネティクスと呼ばれる。オプトジェネティクスを視覚再生に利用しようという流れがある。
網膜色素変性症はフォトレセプターがないが、神経節細胞にチャネルロドプシンを発現させることで光を受容し、その信号を伝えられるのではないかという試み
網膜色素変性症であっても内層の網膜は残る。
伝導系のガングリオンセル、アマクリンセルでチャネルロドプシンを発現させると、VEPが回復する、という報告がある。
人工網膜の活用につながる可能性が示唆された。
ガングリオンセル+アマクリンセルでチャネルロドプシンを発現させると、ガングリオンセルのみで発現させるよりも反応が増強することがわかった。
・網膜の信号について
我々の網膜は逆行性(光を受け止める層が一番奥深くに存在する)
タコやイカは順行性(光を受け止める面が網膜先端に存在する)
なぜ我々の眼は非合理的なのか。RPEでフォトレセプターを貪食する必要があるため。
↓
光を受容したシス型のフォトレセプターはトランス型に変化するが、そのままではシス型にもどれない。
RPE細胞が貪食し、酵素でフォトレセプターをシス型に戻すvisual cycleが必要であり、シス型に戻ることで再び光を感知することができるようになる。
また、GPCRのため信号を増幅することができる。
一方で、植物型はトランス型で光を感知して、visual cycle不要。増幅機構はない。
→いいとこどりのキメラロドプシンを作成すると、キメラロドプシンは感度が高いことがわかった。
マウスは通常夜行性のため明るいところを避けて暗いところへ移動しようとするが、網膜色素変性モデルのマウスは明るいところ、暗いところの半々に存在する。
キメラロドプシンを注射した色変モデルマウスは野生型と同じくらい暗いところに移動するようになる。
VEGF、新生血管についての研究
・RPEの機能
上記の貪食能、visual cycleに加え、光受容、水を抜く、イオン交換、サイトカインの分泌などがある。VEGFもRPEより分泌される。
・VEGFは生理的にはなにをしているのか
薬剤により適当なタイミングでRPEからVEGFを抜くことができるマウスを作製。
VEGFを抜くと脈絡膜毛細血管板が3日くらいで完全になくなり、オプシンが2ヶ月半程度でなくなってしまった。
VEGFはRPEから出ているが、脈絡膜血管の維持および、フォトレセプターの維持に関係していることがわかった。
長期かつ強力に抗VEGF療法を続けると網膜の血管を保てなくなり地図状に萎縮してくるという報告と整合性がある。
RPEが低酸素状態に陥ると→ドルーゼンが溜まる、フォトレセプターがなくなる、CMVが生じる
必要な血管を維持しなければならないためVEGFを完全に抑制することはできない。
★VEGFではなくその上流のHIFに着目!
HIFはVEGFを病的に活性化させる
HIFは低酸素状態のときのみ発現し、健康な状態では存在しない=HIFを阻害することができれば必要な分のVEGFは残しながら、病的なVEGFを抑制できるのではないか
・HIF阻害剤
トポテカン投与によりROPモデルマウスで異常な新生血管のみ抑制できることがわかった。しかし、抗がん剤であり細胞毒性が強いため、より安全なものを検索中。
→きびなごの成分にある。現在研究進行中。
近視を抑制する研究
近視を抑制するEGR−1をターゲットにスクリーニングしたところ、クロセチンで非常に高い活性があることがわかった。クロセチンとはクチナシ由来の色素。
近視誘導マウスに食べさせると近視を抑制し、眼軸伸長とめる。現在臨床試験中。
まとめ
・低酸素応答は網膜の発生生理、病態生理に重要な役割を担っている
・生体における低酸素誘導因子の活性は血管新生だけでなく網膜の萎縮に関係している
・ドラッグスクリーニングにより新規のHIF阻害薬を開発しており網膜疾患動物モデルにて治療効果の確認をおこなっている
・網膜だけでなく近視の病態解明やオプトジェネティクスによる視覚再建の研究が進行中である
●質疑応答 抜粋●
クロセチンはなにに入っているの?(島崎)
→サフラン。パエリアの黄色い色素。
低酸素の状態がHIF活性化するというのはそもそもは栄養状態の反映のシステム?
栄養状態がキープできていれば活性化しない?(平山)
→十分な酸素下でも飢餓状態、ストレス、炎症に対する応答でHIFは活性化する。
加齢によりタンパク分解が落ちるとHIFが残ってしまい、低酸素状態と同じような発現型になってくる。
ガングリオンセルへのチャネルロドプシンはどのような疾患をターゲットにするのか?(平山)
→網膜色素変性症は外層の網膜がダメージをうけるが、進行例であっても内層は残る。
その残った電線を刺激することで光感知できるようにならないかと試みている。
オプトジェネティクスは永続性あるの?(島崎)
→永続性あると考えている 一度の遺伝子導入でずっと持つ
|