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・2018.11.08 第155回ドーナツセミナー実施記録
房水サイトカインと緑内障病態
熊本大学生命科学研究部眼科学分野 講師 井上 俊洋先生

【outline】

  • 緑内障眼の房水サイトカインプロファイル
  • 房水MCP-1と手術成績
  • 房水IL-6とTGF-β
  • 房水VEGFと眼圧調節

1.緑内障眼の房水サイトカインプロファイル

房水成分は生理的にも濾過手術後にも緑内障病態に直結している。 緑内障で増加している房水生理活性物質は様々であり、井上先生らはIL-8、TGF-β、EGF、PDGF-AAが増加していることを報告している。

・TGF-β
緑内障眼の房水で濃度上昇
TMの細胞外マトリックス産生を亢進させ房水流出率を低下させる。しかし、TGF-β濃度と濾過胞形成は必ずしも相関がなく、トラベクレクトミー成績を上げることはできなかった。→濾過胞形成には他の因子が関わっている可能性が考えられた

・手術とサイトカイン
IL-8、MCP-1はIOL眼で高値であり、非緑内障眼における術前後のペア房水の解析により手術の影響で増加していることが示唆された。
Phaco後の房水MCP-1が上昇する機序:水晶体嚢上皮細胞が房水に暴露して形質転換することで、MCP-1が房水中に産生される

・ぶどう膜炎緑内障とサイトカイン
ぶどう膜炎緑内障ではサイトカイン濃度が軒並み高値を示すが、その中でMCP-1濃度とTNF-α濃度はTGF-βと負の相関を示す。それはTGF-β2はimmuno-suppressiveであることと関連している可能性が考えられた。既報でも、ぶどう膜炎の活動性と房水TGF-β2濃度は負の相関を持つこと、TGF-βはT細胞やB細胞の増殖・活性化を抑制していることが報告されている。

・血管新生緑内障とサイトカイン
IL-6、IL-8、MCP-1、TNF-α、PDGF-AAの濃度がコントロールおよびPOAGより高値であった。サンプルの66.7%は房水採取の2日前にベバシズマブの硝子体注射を施行されており、その影響が検討された。正常ウサギの実験において、抗VEGF抗体の硝子体注射により前房MCP-1濃度は上昇した。また、低酸素ストレスでサイトカイン産生は増加し、抗VEGF抗体はこれを抑制しないこともわかった。

 

2.房水MCP-1と手術成績

房水MCP-1が高いグループはトラベクレクトミー術後早期に眼圧上昇する傾向が見られた。
濾過胞三次元解析の結果によれば、継時的にバイパスの幅が狭くなることによってIOP上昇が起こるが、幅とMCP-1濃度が関連していることが判明した。
房水MCP-1が高濃度であると濾過胞の消失、房水バイパスの閉塞のリスクが高まり、眼圧再上昇、トラべクレクトミーfailureとなる。

創傷治癒モデル
房水MCP-1は単球系の細胞遊走を起こすことがわかっている。
MCP-1はtight junctionを変化させ、CCR2を介してシュレム管内皮の膜抵抗を減少させる
→CCR2阻害薬で緑内障手術成績が向上する可能性あり!

一方で、非緑内障眼ではMCP-1が房水流出率を上昇させる。(線維柱帯には影響を及ぼさない)その他IL-1α、IL-6、IL-8、TNF-αでも房水流出率上昇するという結果が示され、それによる眼圧下降も見られた。

 

3.房水IL-6とTGF-β

OAGがんではTGF-β2濃度が高いことはメタアナリシスで証明されている。
TGF-β2濃度上昇→TM線維化→房水流出抵抗が上昇→眼圧上昇

線維柱帯細胞由来サイトカインIL-6↑
sIL-6Rの存在下では膜型レセプターが発現しない細胞でもシグナル伝達可能になる(トランスシグナリング)。IL-6トランスシグナリング活性化によって、TGF-βによるTGF-βリセプターの発現誘導が抑制されることがわかった。

 

4.房水VEGFと眼圧調節

抗VEGF治療によって容量依存性に房水流出率が低下することが報告されている。
VEGFはシュレム管内皮の膜抵抗を低下させる
tight junctionには影響なし

眼圧上がるとTMがメカニカルストレッチして、VEGF産生↑シュレム管内皮抵抗↓房水流出率↑

 

<take home message>
・房水MCP-1はシュレム管内皮細胞に作用して流出率↑、濾過手術の成績に悪影響
・房水IL-6とsIL-6Rは線維柱帯細胞のTGF-βシグナルを抑制する
・房水VEGFはNVGの病態と眼圧のホメオスタシスに関与している

 

<質疑応答>
・(オサマ先生)CCR2阻害薬で手術成績上がる可能性が示唆されていますが実際にin vivoではどうか?
→うさぎの濾過手術モデルで研究されている。

・(島崎教授)濾過手術の侵襲でサイトカインが漏れ出て上昇するということはないのか?→短期的にはリンパ管血管からのサイトカインあるかもしれないが長期的には房水からのMCP-1と考えられる。

・(山口先生)ステロイドで房水サイトカインは抑制できるのか?
→個人的には抑えると思う。ただし炎症細胞由来の場合のみで虹彩や嚢から出てくるサイトカインには効かないのではないかと考えられている。

・(山口先生)ステロイド緑内障では各種サイトカインはどうなっているのか?
→生理的な分泌もステロイドで抑えられて抵抗が上がっているのではないか。

・(島崎教授)NTGではどういう結果か?
→レクトミーをNTGに対してあまり行わないため、房水データにNTG患者はほぼ含まれていない。

・(島崎教授) 眼圧でメカニカルストレッチとあるが、そんなに鋭敏なのか?
→かなり鋭敏なようで、眼圧維持のためのセンサーのような役目もあるように思う。

文責:安

 
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