「どうする?こうした!こうなった!?角膜が悪い緑内障症例」
東京医科大学眼科 講師 丸山勝彦 先生
●丸山先生よりレクトミートリプル(その後当院にてPKP施行された)の症例のご紹介
●丸山先生の手術件数のご紹介
術式の内訳としてレクトミーが最多である。
濾過包再建術については5年前よりバルベルトおよびアーメドといったチューブシャント手術に置き換わっている。
ロトミーについては、今は眼内法で低侵襲でのアプローチが可能になったことから件数も増加してきている。年間件数としてはレクトミーが200件強、ロングチューブが50件、流出路系(ほとんどがsuture ロトミー)が30-40件となっており昨年、一昨年では大体300件以上の緑内障手術を行われている。
今年のデータはまだ明らかではないが、大体例年通りのペースで件数がなされているが、今年はI-Stentが導入されたことからMIGSが増加する見込みである。このくらいの件数を施行すると一定の割合で角膜トラブルが起きてくる。
●レクトミーの適応について
緑内障手術の術式は症例ごとに治療効果(眼圧下降)と安全性のバランスが考慮されて決定される
その中でもレクトミーは特に手術既往がない症例、結膜瘢痕がない症例、そして血液房水関門が破綻していない症例などに対してはもっとも眼圧調節が優れた術式であり。これらがレクトミーを選択する適応となっている。
相反する様に聞こえるかもしれないが、これらを完全には満たさなくても無理をすればどんな症例にでも適応できることも(丸山先生の)件数が多い理由になっている。
しかし眼圧下降が達成されたとしても合併症による視機能低下により患者さんが不満に感じることはが少なくない。
(慢性緑内障における視機能の影響のグラフ(縦軸:Vison related QOL (VRQOL)横軸:年齢、重症度をご提示)
緑内障は初期から中期にかけてはほとんどVRQOLが低下することはない。ナチュラルコースでは、ある1点から低下してくるが、まだ軽症のうちに治療を行うと逆に治療によりVRQOLが低下することがある。薬物療法を開始して、多剤併用療法となって手術を行うが、合併症が多くなってくる。
(角膜関連の合併症でDellenと乱視についてご紹介、術後5ヶ月のテールアウトをきたした症例をご提示)
一見濾過胞がそれほど大きくない様に見えるが角膜輪部にはDellenが形成され、患者はゴロゴロとした異物感を自覚している。Dellenに対しては眼軟膏に転入で様子を見ることがあるが、この様な場合は拡がりをtemporalに行かないように塞きとめるために圧迫縫合が有効である。
丸山先生はスリットにて10-0ナイロン(ヘラ針)で円蓋部と輪部に通糸をして濾過胞を圧迫するように縫合をする。
(レクトミー術後3ヶ月の症例をご提示、肉芽種性ぶどう膜による続発性緑内障した症例をご提示)
丸山先生はスリットにて圧迫縫合以外にもレクトミー後の処置として、ニードリングも行っている。肉芽種性ぶどう膜炎の場合には、癒着が起こりやすく濾過胞の気泡化が起きる、この症例でもマッサージをして濾過胞が少しできるように見えるが、厚いカプセルで覆われており眼圧も30mmHgである
丸山先生はニードリングの前に必ず隅角を確認することをしており、この症例の場合ではtemporalのflapの間隙に目星をつけて、そこから27G鋭針にてアプローチを行い、カプセルを切り濾過胞の拡張を行っている。(隅角鏡にて強膜弁下の間隙の位置を確認、強膜弁辺縁→強膜弁右濾過胞壁→前房内にアプローチという流れ)
基本的にできる処置はとにかくスリットで行っており、手術用顕微鏡では奥行きがわからないため、このような奥行きの把握が必要な処置は、スリットで行った方が分かりやすいうえ処置室まで行く時間も節約できる
レクトミー術後のうち4割強の患者がニードリングをすることになることを考慮すると時間が勿体なく、感染の懸念もあるかもしれないが、ニードリングの場合は眼の内から外に房水流れていくので一般的には心配はないが、低眼圧の場合は注意が必要である。両手がふさがった時のピント調節はどうするのかという質問が多いが、スリットを押し込むときは額のところを押す、引くときは親指の根元がちょうどスリットにかかっているので、引いていると良い。
●経結膜的強膜弁再縫合
過剰濾過で低眼圧になった時の処置、結膜の上から強膜弁を縫合するがこれもスリットで行っている。
(術後1ヶ月の症例をご提示)
過剰濾過で前房が消失している、この症例では結膜が薄く10-0ナイロンヘラ針で縫合している、丸針でも良いが縫合時に抵抗を感じることがある。
(縫合一週間後の写真をご提示)
10-0ナイロンは完全に埋没しており、濾過量が抑えられ全貌が形成されているのが分かる。
(レクトミー後の輪部からのリークの症例)
術後スリットでseidel試験にてリークがあれば、そのままスリットにて縫合を行う。
●レクトミー後どれくらい乱視が生じるか
レクトミー単独手術施行群とレクトミーと白内障手術の同時手術施行群を対象に検討した。
【組み入れ基準】
・術前の角膜乱視 < 0.5D
・内眼手術の既往なし
・角膜形状に影響を与える疾患なし
これらを対象にHoladay法により双方向乱視量の解析を行った。この解析法は切開層の方向が変数として入っており、斜め方向から切開するレクトミーのような惹起乱視を評価するのに適している。
結果については、ばらつきはPhaco-Trab群で多く、全体では術後3ヶ月の角膜惹起乱視量についてTrab群は0.82、Phaco-Trab群が0.42となり、Trab群はPhaco-Trab群よりも惹起乱視量が有意に多いという結果になった。
値はどちらもプラスであり、Holaday法で考えると切開層に対して直乱視化することを意味しており、強膜弁作成方向へ向かうほど乱視が強くなることが明らかになった。
交絡の可能性のため多変量解析を行い、角膜惹起乱視量を独立変数、年齢、屈折術後眼圧、術式(Trab vs Phaco-Trab)を説明変数として重回帰分析を行った。
結果は術後の低眼圧が乱視に影響するのではないかと考えられるかもしれないが、眼圧は有意ではなかった。唯一、有意な説明変数として明らかになったのは年齢であり、年齢が若いほど惹起乱視が大きいということが分かった。これについては対応しようがないが、若年者については直乱視が多いので、左右どちらにフルにしても、レクトミーの術後、さらに直乱視の増悪を認めている。
(30歳代のレクトミー症例をご提示)
眼圧下降が良好ではあるが乱視が5Dもあり見難いという訴えがある。
丸山先生はこの惹起乱視についてレクトミーではなくエクスプレスで軽減できる可能性があると考えた。エクスプレスは強角膜ブロック切除がなく、つまり組織を切りとらないし、眼圧が極端に低い状態で強膜弁縫合を行うこともない。
そこで、この両術式にて惹起乱視に差がないか検討を行い、エクスプレス手術施行群、Trab群、いずれも単独手術群を対象とした。組み入れ基準は先ほどとほとんど同じだが、エクスプレスについては有水晶体眼の初回手術例があまりないことから、合併症なく終了した白内障手術の既往がある症例も対象に含んでいる。このstudyについては術前の乱視量について縛りをしていないというのが、相違点である。
結果は全体として両群間に差はなく、また眼圧調整成績と成功例での術後眼圧についても同様に差がなかった。角膜惹起乱視についてはレクトミーについては外れ値があり、いずれの症例も術前の乱視よりも強くなるという傾向はあるが全体として解析すると両群共差がない。
強膜弁を作って眼圧を下げ、その弁を縫合する以上、両術式とも、もしかしたら同じくらい乱視が出るのかもしれない。
●チューブシャント手術の話題
緑内障ガイドラインではレクトミーが不成功に終わった症例、結膜瘢痕化が高度な症例、他の濾過手術が技術的に施行困難な症例に適応するよう奨励されている。そのチューブシャント手術に用いられるインプラント材については日本では2種類が使用可能であり、弁があるアーメド、弁がないバルベルトがある。
(アーメドおよびバルベルト留置術の動画をご紹介)
アーメドは理論上8mmHgになると弁が開くなるようになっており、弁があるため低眼圧が起こりにくい。アーメドは回路内にAirがあると表面張力で流れないため、必ずBSSで使用前に通水を行う。(可能であれば)上耳側、赤道部に留置し、23Gで前穿刺後、挿入している。
この症例は新生血管緑内障でいわゆるpseudo angleであり前房が浅く、毛様溝から虹彩裏面を通して瞳孔領にチューブを出している。角膜内皮保護のためこの方法を用いることがあり、その後は保存強膜にて被覆し結膜を縫合していく。
アーメドの特徴は弁のため術後早期の低眼圧が少ないということであり、安心である。
(落屑緑内障の症例を提示、IOL眼で内皮800、レクトミーを一回施行したものの不全となり、バルベルトを留置するに至った)
バルベルトについて通水確認はアーメドと同じだが、このまま入れると弁がないため低眼圧になってしまうことから吸収糸でチューブの根元を絞め、その後通水がないことを確認し、その後、直筋下に滑り込ませるように挿入していく。
バルベルトは体積が大きいので、眼圧下降は見込めるが直筋にかかるので複視の合併症が多い。
その後吸収糸があるため眼圧上昇の恐れがあり、シャーウッドスリットにてチューブに何箇所か切れ込みを入れておく。眼球マッサージをすることでチューブが歪んだときにスリットから房水が漏れて眼圧を下げることができる。
その後の保存強膜、結膜被覆の手順は同じである。
丸山先生はアーメドもバルベルトも角膜に対する影響が強いということを日常診療で実感されており、このバルベルトの症例も角膜トラブルが起こしており、術後数日から徐々に浅前房になり、1週間後には前房消失した。
丸山先生はこのような事からバルベルトの過剰濾過の問題は、リップコードで対応されるようにしている。これはシャーウッドスリットを入れた後にチューブ内に3−0ナイロンを留置し、プレートの方から引き出し結膜上に出し、後から抜去できるようするものである。丸山先生の場合は2-3週間で抜去をしており、前述のような前房ができにくい場合には抜かないようにし、経過次第ではずっと留置する場合もある。バルベルトは眼圧調整ができないので少しでも眼圧コントロールを可能とする要素を残しておくことで術後の低眼圧、高眼圧に対応する必要がある。
しかしそれでも前房ができにくい症例(PACGの症例をご提示)もあり、バルベルト、リップコードを留置しても術後浅前房をきたすことがある。対してアーメドであれば大丈夫かというとそうではなく、バルベルトが不全、高眼圧になりその後アーメドを留置したが、前房が浅くなり内皮が激減した。
●チューブシャント両術式の成績の比較
両成績を比較した著名なstudyとしてはABC studyおよびAVB studyがあり、さらにこの両者を統合して解析したstudyもある。
参照すると、バルベルトはアーメドより眼圧調整成績に優れる、バルベルトはあーメドより術後の近眼圧が少ないことが明らかになっている。
理由としてはプレート面積が異なること、またチューブの皮膜の性質が異なることも関与が指摘されている。
チューブシャント手術後の眼圧上昇にはプレート周囲の皮膜が肥厚して房水の吸収が悪くなって生じることが分かっている。
バルベルトには弁がないためチューブを結紮することで術後早期にはプレート部に房水が流れないが、アーメドには術後早期から炎症性のサイトカインが多く含まれた房水がプレート部に流れてしまうため、その結果皮膜が肥厚し眼圧をあげてしまうのではないかと考えられている。
眼圧のために再手術になることはアーメドの方が多いが、低眼圧の遷延、光覚の消失についてはバルベルトの方が多い。また重篤な合併症(2段階以上の視力低下、角膜浮腫、低眼圧黄斑症、チューブと角膜の接触など)についてもバルベルトが優位に多いことが明らかになっている
角膜についてはどうかというと、2つのインプラントについてはAVB studyによると角膜浮腫はどちらも1割程度の割合で生じている。角膜浮腫に対する治療についてはどちらの術式でも5パーセント前後の症例で角膜移植が行われている。
●角膜内皮障害がレクトミーと比較し多いのかを比較
チューブシャント手術とレクトミーについて5年間の比較した前向き研究、TVT studyがあり、永続的な角膜浮腫についてはチューブ群で16%をしめており、レクトミーでも9%である。
合併症に対する再手術の内訳については、レクトミーは内皮移植至ったのは1例のみで、浮腫が出ても手術になる例は少ないが、チューブ手術については5年の経過でPKP6眼、内皮移植が2眼、PKP +チューブ再挿入が1眼あり、結局1割弱の症例に角膜移植が行われている。
つまりチューブシャント手術はレクトミーと比べて圧倒的に角膜障害を起こしやすいということである。
理由はチューブの先端と角膜の接触があり、チューブの根元により角膜と虹彩が接触してしまう、これも内皮障害の原因になる。多重手術を行っていることや前房内の炎症も原因と考えるが、このようにチューブシャントによる内皮障害にはいくつもの要素が関係していると考える。
インプラント手術の宿命だが前房側からコントロールすることはできず、ブラインド操作になるため、特にNVGで全周PASになっている症例ではどこからが角膜なのか把握することが難しく、場合によっては角膜から入ってしまうことがあり、これも内皮障害の原因になる。
(外傷後網膜剥離に対し硝子体手術、IOL逢着、PKP施行後の症例をご提示)
硝子体から入れるという場合では、ホフマンエルボーと呼ばれるものであるが、これは大きくて厚いため、長期的にこの上から保存強膜をのせても露出してしまう症例があることから、最近ストレートタイプのチューブを毛様体扁平部より硝子体腔に入れることが一般的になっている。稀に重篤な合併症を起こすことがあり、硝子体術後の症例で低眼圧→出血→眼球ろうとなった症例もある。
他チューブシャント手術で特に成績が良くないのはアトピーの既往が実感としてある。
(白内障と網膜剥離に対して硝子体術後、one chamberの症例をご提示)
サルカスからアーメドを挿入しその後、BullousになりPKP施行されている。その後眼圧上昇をみており、アーメドを2つ挿入している。術後1年経過しているが内皮減少が著しい。また落屑緑内障についても成績が悪いという実感がある。
(落屑緑内障、IOL:S-S固定だったが亜脱臼、one chamberの症例をご提示)
落屑緑内障は進行性の病気ともいえ、落屑物質が散布され続けているいろんなところに影響を及ぼしていると思えてならず、One chamberは角膜移植についても成績が悪いが、眼圧調節についても成績も悪いと言える。
マイアミ大学バスコンパーマー眼研究所からの報告によると全般的にチューブシャント術後の角膜移植の成績は悪く、Graft Drainage Device(チューブシャントとのこと)うち8割が前房内挿入した症例で、全層移植ないし内皮移植について薬物加療中の移植と比較して明らかにGraft Failure(GF)になりやすく、3年でだいたい半数以上がGFになっている。GDDに限った場合PKPに比較して内皮移植の方がより早くGFになってしまうという結果も示されている。
レクトミー後についても内皮移植の成績は悪く、さらにより早く1年というより早い時間で約半数がGFになり、これが3年になると8割弱に達する。
薬物療法中の内皮移植とPKP、さらにレクトミー後のPKP、この3郡には有意差がないとされているが、このように内皮移植と緑内障手術の関係は非常に悪いと言える。
内皮移植の別の報告では、G1:緑内障なし、G2:薬物療法中、G3:レクトミー後、G4:チューブシャント術後で比較しており、G3とG4について優位に成績が悪い。G3は5年で大体60%、G4は5年で25%しか内皮が残っていない。
GFの危険因子については、単変量解析では人種、移植になった原因、緑内障の状態、過去の緑内障手術の内容、rejectionが優位であるが、多変量解析にて緑内障手術の既往とrejectionが独立した危険因子として抽出されている。緑内障手術の既往があるとGFになる確率が14倍となりrejectionの場合は3倍となる。このようにいかに緑内障手術が角膜移植に悪いかが分かる。
(レクトミー後水疱性角膜症、内皮移植、眼圧上昇、サルカスからアーメドを入れた症例をご提示)
術後、虹彩と角膜接触がどんどん進み、Graft上にまで虹彩が接触するようになってしまった。
●終わりに
東京医科大学病院でも症例を重ねることで実際に両者の相性が悪いことがわかってきた。角膜移植と緑内障手術の関係について考えされた症例をいくつか提示したが、角膜が悪い緑内障症例に緑内障手術をすると角膜が悪くなり、それに対して角膜移植をすると今度は眼圧が上がってしまう。角膜が悪いことがプライマリーで始まることもあるが、このスパイラルに眼科医や何より患者さんが苦しめられていることを実感しており、今後少しでもこのスパイラルが打破できればと考えている。
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