今回、渡辺先生より『ムチンからみた角結膜上皮の臨床および分化・発生・生理的作用について』様々な見地から発表していただいた。
- 角結膜上皮の分化マーカー
- anti adhesion molecule
- tear filmの発生
- 感染防御
- 上皮のdiffuse barrier
- 涙液やドライアイとの関わり
に関して、それぞれの観点から説明していただいた。
角膜上皮の分化マーカーについて
ムチンの種類(膜型と分泌型)のうち、特に膜型ムチンに関して、その分化は基底細胞から表層にいくに連れて、形態が円柱から扁平な形になり、ムチンの発現やtight junctionが見られるようになる。tight junctionの働きとして、細胞膜内外の環境を形成し、細胞間の透過性やタンパクの移動を阻止している。 膜型ムチンは角膜上皮に発現しており、microvilliを形成している。
最表層での時間経過 microvillie 膜型ムチンの発現
↓ | +++ | +++ |
↓ | ++ | ++ |
↓ | + | + |
これらは瞬目などで物理的に擦過・脱落する。
anti adhesion moleculeについて
この作用は端的に言うと、『癒着を防ぐ』ということである。つまり、瞼球結膜に膜型ムチンが存在する事で、瞼球癒着を防いでいるが、ここで上皮が障害を受けると瞼球癒着を起こす事になる。これは涙点閉鎖術の術式にも応用され、この手術において、涙小管の上皮をしっかりと剥ぐことが、術後の癒着を促し、再発を抑制するという事にも応用される。また、体内において眼以外では、子宮内膜における受精卵に関しても、このメカニズムと同様の事が言える。すなわち、子宮内膜はムチンで覆われており、 通常精子は着かないが、受精卵となると局所でのムチンの作用を抑制し、受精卵が子宮内膜に着床することができる。
tear filmとムチンの発生
ラットの実験系において、ムチンに発現するマーカーの一つであるMUC16に相当するR339を用いて膜型ムチンの発生を示したモデルである。通常、生まれたラットは日齢12日までは閉瞼しているが、その間わずかではあるが眼表面や瞼結膜にR339が発現しているが、 開瞼後24時間で急激に瞼球結膜や角膜にR339が発現するようになる。また、本来まだ開瞼していない日齢11日のラットの片眼を人工的に開瞼すると、 閉瞼したままである対眼はR339の発現はあまり認めないが、一方で人工開眼した群では24時間以内に眼表面にR339が発現することを認めた。また同様に開瞼することで、涙液量も増える事より、涙液とムチンの発現は関連していると思われる。
感染防御とムチン
ラットのモデルにおいて、閉瞼時には易感染性であり、開瞼時には感染耐性があることがわかっている。これに膜型あるいは、分泌型のムチンの関与を調べてみる。結果は、分泌型ムチンを除去すると、緑膿菌がつきやすく、膜型ムチンを阻害すると黄色ブドウ球菌が付着しやすかった。すなわち、両者が共に作用して眼表面の感染防御の役割を果たしていることがわかる。
角膜上皮のdiffuse barrier
in vitroの実験において、角膜上皮はローズベンガル染色にて容易に染色されるが、そこにブタの胃粘膜から採取したムチンを入れると、 ローズベンガルに染色されなくなる。すなわち、ムチンが発現していないところに、ローズベンガルが染色されていることがわかる。臨床において、SLKのような症例で、上皮の角化が強いと、ムチンの発現が乏しく、容易に染色されるが、治療により正常化してムチンが発現するようになると、染色されなくなる。また、このバリア機構には、MUC16だけでなく、Galectin3がMUC16を架橋する必要があることがわかっている。
ムチンとドライアイとの関連
MUC16の発現とドライアイの重症度は負の相関があることがわかっている。さらに、ドライアイでは、goblet細胞の数が減るだけでなく、その大きさが大きくなっている。これは、ムチンを放出できなくなっている事が考えられる。
MUC16の発現が低下する疾患
ドライアイ・OCP・SLK・Stevens-JohnsonSyn
MUC16の発現が上昇する疾患
輪部腫瘍、VKC、アレルギー性角結膜炎、炎症性角膜疾患
ドライアイでは、涙液の安定性が低下し、MUC発現が低下する。すると、さらにその結果、ムチンが減ることで涙液が不安定になるという悪循環の状態にあるため、点眼薬などでこの悪循環を断ち切る必要がある。その部分で注目なのがジクアスとムコスタである。
ジクアスに関しては、軽症例では効果が高く、18%ぐらいの症例では無効である。
tear meniscasに対する安定性としては、ソフトサンティア:1分、ヒアレイン:5分に対してジクアスは30分と効果は高い。さらに、涙点プラグ挿入眼ではさらに効果的である。しかし、糸状角膜炎がある症例には注意が必要で、上皮障害を改善させる一方で、糸状物は悪化する可能性があり、自覚症状の悪化に繋がる。
ドライアイの治療薬として
ジクアス 水分増加 ムチン増加
ムコスタ 水分増加 ムチン増加 抗炎症(抗酸化)
と、今後のドライアイ治療は、そのターゲットに対する層別治療が求められる可能性がある。