講演第1部
緑内障と眼循環 順天堂大学浦安病院 准教授 木村至 先生
■ 緑内障
眼圧を含む多数の危険因子により進行する多因子疾患
■ 病因論
機械的障害説:眼圧上昇による直接障害
循環障害説:乳頭部の循環障害が視神経障害の主因
■ 眼循環の測定方法 レーザードップラー法、レーザースペック法、色素希釈法、超音波カラードップラー法
■ HRF (Heidelberg Retina Flowmeter) 網膜・視神経乳頭の任意の部位における組織血流量の定量化が可能
AFFPIA (Automatic full field perfusion image analyzer)により測定精度が飛躍的に上昇
パラメーター:volume、flow、velocity (flow/volume)
※flow値が理論的に血流量を最も端的に示す。
測定深度:400μm→macula以外ではretinaの血流を表している。
視神経乳頭部位では網膜血流と脈絡膜血流の低下を合算している。
■緑内障に関する臨床応用
緑内障性視神経障害と視神経血流障害の間の有意な相関が多数報告されている。
- 正常眼と比較してPOAG及びNTG患者の乳頭毛細血管の血流が低下している。
- POAG患者の乳頭辺縁及び傍乳頭網膜血流が低下している。
- POAG患者のneuralretinal rimのflow値はC/D比の増大とともに有意に減少する。
- NTG患者で、上半視野障害優位患者と下半視野障害優位患者で視神経乳頭の上下の血流と視野障害の部位に相関がみられ、乳頭循環障害と視野障害の関連が示唆される。
■ 網膜疾患に対する臨床応用
CRVOやRRD、ERM等の疾患に対して、HRFを用いた研究報告があり、RRDやERMについては外科的治療により、眼循環が改善することが示されている。
■全身疾患と眼循環
緑内障と全身循環動態の関連が数多く報告されている。
全身または末梢循環調節機構の障害が緑内障発症に関与している可能性が示唆される。
※AION・・・限局した網膜虚血領域→視野障害部位と乳頭血流障害部位が一致
■ エンドセリン-1(ET1)
主に血管内非細胞で産生され、血管平滑筋に作用する。
動脈硬化症のET1は正常時に比べ優位に高く、その濃度は動脈硬化度と相関する。
ET1のNTGへの関与を示唆する報告がある。
日本のおいてはNTGにおけるET1血漿濃度は必ずしも高くない。
■ プロスタサイクリン(動脈硬化関与因子)受容体の遺伝子多型を調査
アミノ酸置換を伴う1種類のSNPについては全例緑内障を発症しており、全患者の2%を占めていた。これは同じ母集団の中のMYOC、OPTNの割合より圧倒的に多かった。また、健常人にはみられなかった。
講演第2部
オキュラーサーフェス疾患あれこれ 東京歯科大学市川総合病院 教授 島撫=@先生
■リスクファクター理論
涙液の不安定化←→角結膜上皮障害
様々な要因が原因となってくる。
眼表面異常を診断する上で、問診及びフルオレセイン染色が特に重要(情報量が多い)。
■フルオレセイン染色で得られる情報
- 上皮障害の分布:情報・中央・下方、角膜/結膜
- 涙液層の安定性(BUT)
- 涙液メニスカス
- 異常上皮の有無
■薬剤性上皮障害
どんな点眼液でも上皮障害を起こしうる。
薬剤性障害の上皮障害の分布:ドライアイ(結膜>角膜)、薬剤性障害(結膜<角膜)
上皮障害を生じやすい点眼
・点眼麻酔薬
・抗生物質(アミノグリコシド系、ゲンタシン、トブラシン)
・抗ウイルス薬(IDU)
・NSAID
・緑内障点眼
※ほとんどの緑内障点眼はBACを含む。
濃度は薬剤により異なる(高:キサラタン、エイゾプト)。
防腐剤を含まない緑内障薬剤:チマバック、ニプラジロール、トラバランズ
治療
原則として点眼中止(難しい場合は、点眼回数を減らす、上皮毒性の少ないものに変更)
※通常の上皮障害より回復に時間がかかる。視力が戻るのは上皮障害治癒後。
■TS-1による上皮障害
TS-1の適応:胃癌、結腸癌、直腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、乳眼、膵癌
ここ数年、角膜上皮障害を来すと報告多数あり。
対処法
角膜上皮障害のためには投薬中止だが、現疾患の治療が優先
人工涙液によるウォッシュアウト
他科主治医に障害が出ていることを知らせる。
患者には、ほとんどの場合可逆的で失明等につながらないことを説明。
■偽類天疱瘡
薬剤惹起性類天疱瘡
点眼薬の長期使用による瘢痕性角結膜症
臨床的にはOCPと区別がつかない。
βブロッカー、ピロカルピン、ジピベフリン等で報告
重症例では、輪部機能不全を生じる。
■マイボーム腺機能不全
マイボーム腺の働き:脂質産生→涙液油層形成 表面張力↓等涙液の安定性に貢献
マイボーム腺に何らかの変化が生じ、機能が失われ、オキュラーサーフェスに異常をきたした状態。頻度は高いが、概念・診断基準等まだ明確ではない。
眼瞼の所見:瞼縁の血管拡張、不整、plugging、pounting、皮膚粘膜移行部の乱れ
分泌物の観察:眼瞼を圧迫してマイボーム腺分泌物の性状と量を観察
治療
適応:眼不快感などの症状があるとき、上皮障害を伴うとき
ドライアイ点眼治療、lid hygiene
油性点眼・軟膏
※オフロキサシン軟膏少量塗布:軟膏中の基剤が涙液油層の代用として適している。
■小児の眼瞼角結膜炎
最近増えている。
常在菌に対する遅延型過敏反応
治療:抗生物質とステロイドの点眼・軟膏
再発・難治時:マクロライド系抗菌薬内服
※直接的な抗菌作用ではなく、粘液分泌抑制、バイオフィルム破壊等を目的に行う。
■BUT短縮型ドライアイ
原因不明。増えている。通常のドライアイに比べ、若年・男性に多い。
涙液:正常かやや少なめ 上皮障害:ないかわずか
所見の割に症状が非常に強い。
治療に難渋することが多い。一部の症例で涙点プラグが効く。 |