1.遺伝子を用いた迅速診断
角膜は病理診断を行うには試料が十分量取れないという欠点がある上に、重傷例ではしばしば抗生剤がすでに投与されており、起炎菌を同定しづらい。そこで最近、PCRを用いた新しい診断法が研究されている。角膜擦過物をbroad-range PCRにかけるもので、細菌や真菌のDNAのうち変異の少ない部分に対してプライマーを作成すると、何らかの細菌や真菌が存在すれば増幅されるので、キャッチできる。この方法の利点は、迅速、死菌も可能、プライマーの設定によりターゲットを絞って検索することが可能、などが挙げられる。欠点としては常在菌を検出してしまうリスクがあることであるが、画期的な方法であることは間違いなく、臨床応用が期待される。
2.スリット所見から見る感染症
■角膜潰瘍の改善のみかた
(1)反帰法で角膜混濁の陰が虹彩上に映らなければ瘢痕完成していると考えてよい。まだ浸潤巣のあいだは陰が映る。
(2)上皮欠損の縮小。ただし、アカントアメーバや糸状菌は病勢が強くても上皮修復力があり、かならずしも上皮欠損と重傷度は比例しない。
■角膜潰瘍:メジャーな起炎菌を知る
- 3大強毒菌:緑膿菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌
進行が早く、潰瘍の辺縁は明瞭でない、前房内炎症強く、毛様充血も強い、実質融解を伴う。緑膿菌は輪状膿瘍を呈し、実質融解も強い。肺炎球菌は感染巣が移動するcreeping patternをとる。 *セラチアも緑膿菌に似た病勢をとることがある
- 弱毒菌:CNS, モラクセラ。ニューキノロン+セフェム系でコントロールできることが多い。
- カンジダ:細菌と所見が似る。罹患のバックグラウンド大事。カビはあまり実質が溶けないと言われるが、カンジダは融解することもある。
- 糸状菌:羽毛状のfocus。Endothelial plaque、前房蓄膿を伴う。実質融解に乏しい(糸状菌はコラーゲンを食べずに、内皮側へ逃げていくため)。ただし、最近増えているアルテルナリアは表在性。
■コンタクトレンズ装用者の特徴を知る
- グラム陰性菌が多い。緑膿菌が多かったが、最近はセラチアが増えている。最近主流のケア用品であるMPSは緑膿菌を殺菌できるからではないかと考えられる。治療はニューキノロンン+アミノグリコシドが基本。
- 円形の比較的弱々しい上皮下浸潤の場合、弱毒菌の菌体外毒素による感染アレルギーとの鑑別が難しいことがある。2〜3日CLを外すだけで様子を見て、これで軽快すれば感染アレルギーと考えられる。軽快後低濃度ステロイドを足す。
■ノカルジア、アクチノマイセス(放線菌):真菌に似た桿菌。好酸性で染色すると分子する像が見られ、糸状菌に似る。
■アメーバ:所見は2パターン。
- 浅層のmultipleな浸潤と、それをつなぐようなcrack line。これが樹枝状潰瘍とみられ、ヘルペスと誤診されることが多い。上皮擦過が有効。
- ざらざらした輪状浸潤を呈す。これは顆粒状の浸潤の集積。輪部から等距離に存在。
- 薬剤は、抗真菌剤に準じ、ときにグルコン酸クロルヘキシジンを併用する。
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