普段の臨床で我々にはあまり接点がないが、一昔前学生時代に苦労して勉強した覚えのある細胞膜のイオンチャンネルの基礎的なお話から、最新の結果まで講演していただきました。
角膜上皮においてEGFはその分化、増殖に必須であり、分離した角膜上皮細胞を培養する際にも必ず培養液に添加されている因子であり、こういったEGFなどの増殖因子により、上皮細胞内に一過性に[Ca2+]の流入が起きて、その結果様々な酵素やタンパク質が活性化されていきます。
もともと細胞内[Ca2+]は細胞膜にあるポンプ機能により、細胞外液の1/10000程度の濃度勾配に厳密に調節されています。
この細胞膜のポンプと似た機構が、細胞内小器官の小胞体膜にもあり、その内部にカルシウムイオンを蓄積しています。
こちらの小胞体内からの[Ca2+]の流出調節はイノシトール3リン酸により制御されています。
つまり細胞内の[Ca2+]が上がるには細胞外からの流入もしくは細胞内の小胞体からの流出があるわけです。
この[Ca2+]は上皮細胞のホメオスタシスにたいへん重要であり、皮膚のケラチノサイトや角膜上皮細胞は、低い細胞外[Ca2+]の環境で未分化、かつ増殖能を保ちますが、これがおよそ1.0mM以上の細胞外[Ca2+]になると分化が進み、増殖能もなくなってしまいます。最近の研究で、この[Ca2+]の細胞膜レセプターとして、TRPV(transient receptor potential vanilloid)グループが働いていることがわかってきました。
このTRPVはとうがらし成分のカプサイシンのレセプターでもあります。
そのうち、TRPV4はマウス皮膚ケラチノサイトでも発現が確認されていますが、まだその役割ははっきりしていません。
その[Ca2+]シグナリングとの関係から、上皮細胞での分化、増殖に影響を与えることは確かであろうと考えられますので、今後のさらなる研究が期待されています。
文責: 川北哲也
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