(1)角膜移植によって視力の回復はどの程度まで可能か
- 術後の視力回復の早さには大きな個人差があります。角膜移植と同時に行う手術が多い程、また年齢が高い程回復に時間がかかる傾向がありますが、それ以外に、移植された角膜と患者さんとの適合性(相性)が大きく関係します。一般に角膜移植後に視力が充分に出るまでには、早い人でも1ヶ月、遅い人だと半年以上もかかるので、入院中によく見えるようになる人はむしろ稀と言えるでしょう。
- 手術後の視力回復の度合いは、以下に挙げるようないくつかの要素により異なります。
- 角膜以外に悪いところはないか?→角膜以外に、緑内障や網膜の病気があると、視力の
回復は当然悪くなります。
- 移植角膜の透明性→手術後に角膜にむくみが出たり、しわが出来ることがあります。一般的には、むくみが取れるのに2〜3ヶ月かかると言われています。また、表層移植の時には、元の濁りが多少残ることもあります。
- 乱視の程度→乱視は角膜の歪みによって生じます。乱視を減らすには手術後に糸の調節などを行いますが、それでも歪みが残って視力に影響することがあります。
(2)抜糸はいつやるのか
- 角膜を縫う糸は大変細く、術後数日で表面に顔を出さなくなります。基本的に何も問題がなければ抜糸はしません。手術後数ヶ月以上して、糸が緩んだり、切れたりした場合には抜糸をします。それ以外の場合では、1年くらい経過した時点で、乱視が強く残っている場合などに、視力を良くする目的で抜糸をすることがあります。
- 抜糸は、点眼麻酔で15分くらいで終わります。通院で行い、痛むこともありません。但し、時に炎症を起こしたり、創口が開く原因になることがあります。
(3)手術後は今まで使っていた眼鏡やコンタクトレンズは使えるのか
角膜移植後は、近視・遠視・乱視などの度数は大きく変わってしまうので、今までの眼鏡やコンタクトレンズは合わなくなってしまいます。手術後数ヶ月は、度数が安定しないので、度数をちゃんと合わせるのはその後になります。
(4)手術で起こりうる合併症
どんな手術でもそうですが、角膜移植でも合併症が発生することがあります。手術の時、あるいは術後間もなく起こりうる合併症としては、
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麻酔や薬によるアレルギー
- 目の周囲、または目の中への出血、駆逐性出血
- 感染
- 傷口の付きが悪い
- 糸の緩みや断裂
- 眼圧の上昇
- 上皮の再生不良
などが考えられます。いずれの合併症も細心の注意を払って予防に努め、万一発生したときのための準備もしていますが、最悪の場合は、手術前より視力が落ちたり、失明する可能性も皆無ではありません。
(5)手術後の生活についての注意点
- 移植した角膜片は、大変細い糸で縫い合わせているので、手術後しばらくは衝撃に非常に弱い状態です。不用意に人の手が当たったり、強くこすったりするだけで傷口が開く可能性があります。傷口がしっかり付くまでの目安は術後3〜6ヶ月と言われており、癒着が完成しても強度は正常角膜の半分くらいであると言われています。起きている間は、眼鏡などをかけ、寝るときは網目のマスクやゴーグルをつけてお過ごし下さい。
- もう一つ気を付けて戴きたいことは、「不潔にしない」ということです。手術後にバイ菌が目に入って感染を起こすと、失明につながる場合もあります。
- それから何と言っても「定期的に目薬をつけ、通院すること」が重要です。角膜移植は、退院したからもう安心、ということでは決してなく、むしろ手術と同じくらい術後の管理が非常に重要です。
最後に最も重要なのが、「異常を感じたら直ぐに連絡を取ること」です。術後の合併症は、早い時期に適切な治療を行えば回復出来るものがほとんどです。おかしいと思ったら、放っておかずに当院もしくは近くのかかりつけの先生の診察を受けて下さい。
(6)手術後どのような症状に気を付けなければならないのか
最も重要な症状は、急激な視力低下です。術後しばらくは、見え方が日によって違ったり、一日のうちでも光の加減などによって変わることは、正常でもよくあります。しかし、半日以上かすんだり、どんどん悪化するときは、拒絶反応などの重要な合併症の徴候である可能性が強いので、なるべく早く診察を受けるか、当院あるいは角膜センターにご連絡下さい。
(7)手術後しばらくしてから起こりうる主な合併症
- 拒絶反応(視力低下・霧視・充血):次項で詳しく説明致します。
- 眼圧上昇・緑内障(視力低下・霧視・充血・眼痛):眼圧上昇の結果、視神経・視力に障害を 来す病態です。先ず点眼、内服薬で眼圧を下げます。ステロイド剤に反応して眼圧が上がることもあり、反対にステロイド剤で治るケースもあります。眼圧を下げる手術が必要になることもあります。術前から緑内障のある方は特に注意を要します。
- 角膜上皮欠損(充血・視力低下):角膜上皮がはがれてしまって、傷になってしまっている状態です。遷延する(ながびく)場合は入院治療となります。悪化すると角膜潰瘍になります。
- 角膜潰瘍(充血・視力低下):遷延する場合は入院治療となります。病気のコントロールがうまくいかない場合は長期入院となったり、再移植が必要となったりします。悪化すると角膜穿孔、眼内感染になりえます。感染に対しての注意が必要です。
- 縫合糸の緩み・切断等のトラブル(異物感・充血・視力低下):炎症が起こります。拒絶反応の原因となることがあります。傷口が癒着していれば抜糸で対処します。癒着していない場合は手術で治しますが、その場合短期入院が必要になることもあります。
- 打撲後の傷口の離開(熱い流涙・視力低下):打撲や転倒などによって傷口が離開することがあります(約2%)。その場合入院手術が必要になることが多く、視力が回復しない場合もあります。術後数年以上経っても起こりうるので、転倒しやすい高齢者なのでは、長期にわたってゴーグルなどの保護をした方が安全です。
- 眼内炎などの感染症(眼脂・眼痛・充血・視力低下):入院治療となります。特に重症の場合は、専門病院への紹介が必要となり、角膜移植・眼底手術の合同手術となることもあります。最悪の場合、失明の恐れがあります。
- 眼底疾患(眼内出血・眼底出血等):網膜硝子体疾患の専門病院への紹介が必要となる場合があります。最悪の場合、失明の恐れがあります。
- プライマリー・グラフト・フェイリアー:角膜移植術中、及び術後、ドナー角膜が一度も透明に ならない状況をいいます。移植後の角膜のチェックは出来ることは全てやっていますが、ごくまれにこのような状況が起こります。
- 免疫抑制剤による全身的な副作用:主にネオーラルなどの内服を拒絶反応予防のために続けている方に起こり得ます。定期的な全身検査で副作用の発生を未然に防ぐようにしていますが、異常が顕われた場合は、薬剤の減量・中止などを行うことがあります。
- ヘルペス・ブドウ膜炎の再発:角膜移植前にこれらの病気がある方はその再発に注意しま
す。
(8)拒絶反応について
拒絶反応とは、移植された角膜を排除しようとする体の働きです。角膜移植の場合は、手術後3〜6ヶ月くらいしてから発症することが多いのですが、1年以上経ってから発症することもあります。症状は、ぼやけて見えるなどのことが多く、それ以外に目の充血や軽い痛みを伴うこともあります。拒絶反応の起こる確率は、元の疾患によって変わります。角膜内に血管が入っていたり、前に角膜移植をした場合には拒絶反応の危険性が高くなります。拒絶反応が起こった場合には、一刻も早く治療を始めることが重要なので、なるべく早く診察を受けるようにして下さい。
一般的には、拒絶反応の約3分の2は、薬によって元に戻すことが出来ると言われています。
また、半数近くのケースは、点眼を自己中止した症例や切れたり緩んだ糸をそのままに放っておいた症例であるという報告もあり、点眼と通院の指示はきちんと守って下さい。
(9)手術後の通院の必要性
角膜移植は、手術と同じか、むしろそれ以上に手術後の治療が重要であると言われています。当院で手術を受けられた方でも、手術後に定期的に受診していない方は、合併症を生じる危険性が明らかに高くなっています。必ず主治医の指示に従って通院して下さい。遠方で通院が困難な方は、手術前の状態をよく知っているかかりつけの医師の診察を受けて下さい。通院の間隔は、病状によって大きく変わりますが、始めの数ヶ月間は1週〜1ヵ月に一度、その後は1ヶ月〜3ヶ月に一度くらいが標準的です。 |